• 記事
  • 2020.12.28

時代の変化から紐解く、D2Cに必要なLTV戦略

時代の変化から紐解く、D2Cに必要なLTV戦略

注目されているものには必ずそうなるに至った背景があります。表面的な手法ではなく、裏にある背景を理解して、自社のサービスの中に無理なく落とし込めるものを考えることがデータ活用の第一歩です。

前回の記事にて、「D2C企業が最も重要視すべき指標はLTVである」と書かせていただきましたが、今回は『LTV』を高めていくにあたり、具体的にどうすればよいかの部分を事例を交えつつご説明いたします。

LTVが重要視されるようになった背景

D2C企業に限らず、今や多くの企業が指標として追いかけている『LTV』ですが、なぜここまで重要視されるに至ったのでしょうか。
背景を振り返ってみると大まかに3つの理由があります。

①獲得できるデータが増えた
:一昔前に比べ、企業と顧客の接点は大きく増えました。
従来までの実店舗やコールセンターに加えて、LINEやインスタグラムなどのSNS、コミュニティサイトなど企業は様々なチャンネルを通して顧客と接し、情報を得ることができます。
獲得できるデータが増えたことで、「何がLTVを高める要因なのか」をデータに基づいて分析することが可能となりLTVはより解像度の高い指標となりました。

②サブスクモデルが浸透してきた
:モノからコト、所有から利用へと変化したことで、顧客に継続して利用してもらうことは一層重要な問題になりました。売ったら終わりではなくなったことで、より顧客一人一人に焦点を当てる必要が出てきたのです。

また、長く接点を持てるサブスクリプションだからこそ、カスタマーサクセスという概念も生まれました。これは購入を出発点にして、顧客に様々なアプローチを行い、自社の提供サービスの価値を最大限に引き出せるよう支援することですが、これらの結果、最大化されるものがLTVでもあります。

③顧客との関係性の変化
:新規顧客の獲得が難しくなった現在、顧客とより良い関係を築くことは重要ですが、①でも言及した接点の増加により、企業と顧客の関係性も、企業が顧客に一方的に働きかける縦の関係から、共創していく横の関係へと変化しています。
さらに特筆すべきは増えた接点において、「顧客」を「仲間」として定義し、より開発側のポジションに近づけていっている点にあります。

以上を分析してみると見えてくる要素があります。
それが

『データドリブン』
『モノコトシフト』
『カスタマーサクセス』
『顧客との共創』

躍進をしているD2C企業を紐解いていくと、上記の4要素に対して独自の戦略をもっています。
ここからは実際のD2Cの事例を交えつつ、それぞれの視点についてご説明いたします。

データドリブン

『Snaq.me』https://snaq.me/

データドリブンと聞くと難しいものを意識してしまいがちですが、高度な仕組みを用いてビッグデータを完璧に活用する必要はありません。
データを根拠に顧客の本当に求めるものを探るために、”小さいことから始めてみる”の意識が大切です。

Snaq.meは『おやつの時間をもっと価値のあるものにする』をミッションに掲げる、おやつのD2Cブランドです。毎月届くおやつは初回の診断によって決まり、その後毎回届くおやつを顧客が評価することで、顧客ごとの好みに合った内容にパーソナライズされていく仕組みとなっています。
この「顧客に商品の感想を聞く」という行為自体は真新しいものではありませんが、それを定常的なものとしてサービスの中心に据えた点が重要なポイントです。
また、テクノロジーを上手く活用することで、「評価する」というどちらかと言えば顧客の負担になる行動を、世界観づくりの一部に落とし込んでいるのも特筆すべき点です。

具体的な分析手法や理論はあくまで手段に過ぎず、他社と差別化を図るポイントではありません。
重要なのは、目的を達成するために知るべきことは何かを定め、それらを測定する仕組みを作ることであり、そこに企業の独自性やサービスの価値が現れます。

モノコトシフト

『Coloria』https://coloria.jp/

サブスクリプションの重要な強みの一つに「買いきりでは高い『モノ』を、利用という『コト』にすることでお得にする」という点があります。
継続利用が前提である以上、ある程度の安さを顧客が感じなければ満足度は高まりません。
逆に、日常的に安く手に入るモノをサブスクリプション化しても、コスト的なお得さがないので、サービスの中身が合わなかった場合、割高と感じてすぐ解約されてしまいます。

Coloriaは『香りの定期便』を謳う、香水のD2Cブランドですが、『買いきりでは高く、使い切ることがあまりない香水(モノ)』を『有名ブランドの香水を少量づつ、低額で色々試せる(コト)』のサブスクリプションにしたことで、今まで香水を買う時に
「使いきれるか心配」
「高い香水買って合わなかったらどうしよう」
「店頭のテスターだけでは匂いがわかりにくい」
という悩みを感じていた顧客を取り込むことに成功しました。

ただモノをコトに切り替えればよいというわけではありません。
特にコト(体験)という言葉から、『どういった内容の体験を創るか』に意識が向いてしまうのは当然のことではありますが、コストも体験の持つ重要な要素です。
サブスクリプションを始める際は、コトへとシフトすることでサービスにお得感が生まれ、顧客に魅力を感じていただくことができるか考える必要があります。

カスタマーサクセス

『PHOEBE BEAUTY UP』https://phoebebeautyup.com/

D2Cにおいて物を売ること自体はスタートに過ぎません。
実際に購入した顧客が、思い描いた成功へたどり着けるよう伴走するのがD2Cのミッションであり、LTVを高めるポイントです。
そして、LTVの高さとは、すなわち”成功させた顧客の多さ”です。

PHOEBE BEAUTY UPはレディースコスメのD2Cブランドで、『今日なりたい私をかなえる』をテーマに情報発信を行っていた美容メディア『DINETTE』が立ち上げました。
強みはメディアからスタートしたことによる、悩みの理解の深さです。
美容メディアにて「化粧品を上手に使えない」といった、商品だけではアプローチできない悩みにもフォーカスし、徹底して顧客目線でわかりやすい情報発信を行っていたからこそ、成功体験を与えることのできる商品の開発に加え、顧客からの圧倒的な信頼も勝ち得ることができました。

現在、顧客と企業を繋ぐ関係の構築は商品以外にもたくさんあります。
重要なのは、解決したいユーザーの悩みに対してどういったアプローチができるかを考え、商品という形にとらわれることなく、積極的に働きかけていくことです。
そうした誠実な姿勢がブランドロイヤルティにも繋がっていきます。

顧客との共創

『BASE FOOD』https://basefood.co.jp/

“理念からプロダクトや世界観が生まれ、それに賛同した人々がブランドを支えてくれる”、D2Cのスタートアップにはこの関係がよく見られますが、この”賛同する人々”を単なる”顧客”と捉えるか”同士”と捉えるかで、その先のPDCA・事業成長の速度も大きく変わると考えます。
躍進を遂げたD2C企業のコミュニティ戦略において共通しているのは、”顧客”をサービスを向上させるための”同士”として捉え、彼らの立ち位置をより開発寄りに置いた点にあります。

BASE FOODは『主食をイノベーションし、健康を当たり前に』を掲げる、完全食のD2Cブランドです。
BASE FOODでは顧客専用のコミュニティから生の声を集めるだけでなく、電話インタビューやWebでのユーザーヒアリングによって解約理由等を調査し、それらをスタッフがいつでも見れるようにすることで、結果3ヶ月に一度というハイペースでの商品のアップデートに繋げていきました。

サービス改善のために顧客の声を集めることは多く企業が行っていますが、それらの調査のほどんどは課題発見を目的としているものであり、その先の解決策を考える主導権は各企業にあります。
顧客とは大切な資産であると同時に、ブランドを成長させてくれる仲間です。
D2Cで大切にすべきポイントは、顧客にただ感想を求めるだけではなく、解決策まで共に考る、あるいは「解決策まで共に考えれる関係であると」感じてもらうことです。
それこそが、共創であり、顧客をアンバサダー化させていく第一歩であると考えます。

まとめ

今回はLTVが重要視されるに至った背景という点から、D2CにおけるLTV向上に必要な4つの視点を解説させていただきました。
D2CもLTVも新しい概念ではないものの、時代や価値観の変化に応じて再定義・洗練されてきたことが重要視される要因であり、その中で様々なD2Cのエッセンスが生まれたのだと私は考えています。

 ・ビジネスモデルの中心にデータを据えること。
 ・体験という枠組みでしか得られないメリットを追求すること。
 ・自社商品の利用以外で顧客の成功体験にアプローチできる接点を持つこと。
 ・顧客をもっと開発側に引き込み、意識を変革していくこと。

上記4つの視点を参考に、自社のサービスや特性をどう再定義することが可能か検討し、
施策に活かしていっていただければと思います。